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​とある演劇部の桃太郎事変

とある演劇部の桃太郎事変


規約】を読んでからご利用ください。

 

【登場人物】
ウルフィ:人狼の娘。元気いっぱいワンコな部長。努力家。


さくら:桜の精霊。可愛らしい女の子な部員。怒らせてはいけない。


ベティ:魔人。色っぽいお姉さんな部員。魔王軍の女幹部。


鬼灯(ほおずき):鬼。頼れる長老的存在の部員。見目麗しいがあざとい。


羽林(はねばやし):権天使。破天荒でトラブルメーカーな部員。黙っていればイケメン。


◆人物モデル……ウルフィ:狼朗ハツキ/さくら:桜花さくら/ベティ:魔紋バルン/鬼灯:爺童丸/羽林:エンジェル・有林・プリンシパリティ

【役表】比率1:3:1
狼♀:
精♀:
魔♀:
鬼♂:
天♂♀:









■体育館・ステージ裏控え室

 



狼「ここはゆグドラシる学園。
鬼、人狼、精霊に天使、そして魔人……
様々な種族が集まって、共に協力し合いながら生きる力を育む場所。
異種族交流がある事と在学期間が100年単位な事以外は、まあ人間達の学校とあんまり変わらない。
堅苦しい教師に眠くなるような授業、
乗り越えた先に待つ美味しい食堂ごはん、そして学生生活の醍醐味、部活動!
このあたし、人狼のウルフィは演劇部に所属して、仲間達と共に日々芝居の特訓に明け暮れている。
演劇部のメンバーは粒ぞろいで化け狸も裸足で逃げ出す演技力!
どの演目をやらせてもそりゃあ立派に完成させる、学園自慢の演劇部なのだ!」

精「その演劇部が廃部寸前だから、さくらたちは困ってるんだけどね」


狼「おお、そこに居るのは麗しき桜の姫ではないか~~」 


精「姫じゃなくて精霊。
その長ったらしい説明台詞、本当に今日の舞台で言うつもり?」

狼「当たり前だろ、いかに演劇部が素晴らしいかを観客全員に知らせねえと」

精「自慢の演劇部なんてよく言えるよ。
長い事入部希望者がいないせいで校長に廃部命令出されちゃったのに」

狼「それを回避するために今回の文化祭があるんだろ?
大変だったんだからな、ステージプログラムの中に演劇部割り込ませるの」

精「ああ、軽音部が大笑いしてたよ。
毎年空気だった演劇部の部長が文化祭前日に物凄い勢いで乗り込んできて、舞台をやらせてくれって泣きわめいてたって」

狼「なッ、アイツら……! ベッ別にあたしは泣いてなんかねえ!
ただ、感情が昂っていっぱい遠吠えしちまっただけで……」

精「まあでもウルフィが頑張ってお願いしてくれたおかげで危機を回避するチャンスが生まれたんだよね」

狼「そう! あたし頑張った!
今日あたしらが最高の芝居を見せれば、校長だって絶対考え直してくれるハズだ」


精「とりあえずさっきの長台詞はナシってことで」

狼「え~」

鬼「今日の舞台、上手くいくといいのう」


精「あ、じい。 遅かったね」

鬼「いやあすまんすまん、ちぃとクラスのオバケ屋敷で当番が長引いてな」

精「へえ~、じいのクラスおばけ屋敷なんだ。
何、おばけの役でもやってんの?」

鬼「ワシは鬼役じゃ」


精「まんまじゃん」
 
鬼「今ステージはどんな感じじゃ?」
 
狼「今文化祭スタッフの子達がセッティングしてくれてる。
あと5分くらいで開演アナウンス流すって」


鬼「そうか。
にしても不安じゃの~。 ワシら、人前で芝居をするのは初なんじゃから……」

精「いやほんと驚きだよ。
設立以来一度も舞台上演したことのない演劇部なんて聞いた事ない」


狼「忘れてたんだよ、練習が楽しすぎて」


精「忘れるもの?」

鬼「まあそれで何も言わず付き合っとったワシらもワシらじゃが……」


狼「謂わば今日はあたしらのデビュー日ってわけだ。
文化祭での上演が決まってから今日この日まで練習に練習を重ねて準備は万端!」

精「上演が決まったのは昨日だけどね」

鬼「しかも夜通し練習しとったのウルフィだけじゃしな」

狼「上演内容は全国各地で絶対的な知名度を誇るあの作品!」

精「『桃太郎』」

鬼「何でなんじゃ」

狼「だって桃太郎知らねえヤツなんかいねえだろ?
完璧なチョイスだ……流石あたし……」

鬼「まあおかげで練習不足でも何とか成り立ちそうなんじゃがな」


精「っていうか今更なんだけど羽林は?」


狼「ライーンでメッセージ送ったんだけど反応なかったからあねさんが呼びに行った。
……でも流石に遅えな。 桃太郎がいねえと始められねえぞ……」

精「気になってたんだけど、何で羽林が桃太郎なの?
奇怪千万のわんぱく坊主だから?」

狼「それもある。
あとは天使は人を救うもんだって聞いたから」

鬼「羽林が本当に桃太郎じゃったらめでたしめでたしにはならなさそうじゃが……」

精「わかる」

魔「大変大変大変~~~!!」

狼「おお、あねさん! よかった~、間に合わないかと思ったよ。
……って、あれ、羽林は?」

魔「ハァハァ……! それが……大変なの……!」


鬼「何かあったんか?」

魔「実は……」

天『あ! 鬼灯君の声だ!』

鬼「!?」

精「えッ、羽林どこ?」


天『さくらちゃんもいる~! やっほ~!』

狼「……? あねさんのスマホから羽林の声が聞こえる」

天『あ、ウルフィちゃんも!
いや~ごめんねウルフィちゃん、僕全然ライーン気付かなくて。
スマホ見れる状態じゃなかったからさ』

狼「んなこたいいんだよ!
おい羽林、お前今どこにいるんだ? もうすぐ舞台始まっちまうぞ」

天『いやあ、あはは』


狼「まさか……遅刻するとかいわねえよな」


天『言わない言わない! そんなこと言う訳ないよ~!』

狼「はあ、ならよかっーー」


天『だって遅刻どころじゃないもん!』


狼「……え?」

魔「あの、ウルフィちゃん、怒らないで聞いてね。
……羽林、今日来れないって」

精「え?」

鬼「え?」


狼「え~~~~ッ!?!?」

天『ごべんなざい……』

狼「どーーーいうことだよ羽林ィ!!」

魔「ウルフィちゃん落ち着いて! これには深い事情があるのよ!」

天『沼だけに深い深い事情がね……』


魔「アンタはちょっと黙ってなさい!」


狼「何だよあねさん! 今日の舞台以上に大事な事情なんてあるのかよ!」

魔「聞いて! 羽林だって今日の舞台すっごく楽しみにしてたのよ!
昨日なんて主役に選ばれた事を飛び跳ねながらアタシに自慢してきたわ。
『やっと僕が主人公の世界が巡ってきた!』
『僕が主人公となって大悪魔を倒し、地獄の底から全人類を救済するんだ!』」


精「羽林、桃太郎のあらすじちゃんと理解してる?」

魔「嬉しさのあまり羽林は昨夜一睡も出来なかったと聞いてる」

鬼「可愛い奴じゃな」


魔「だけど、そのせいで今朝はかなりフラフラだったみたいで……」


天『不覚にもハマっちゃったんだ……通学路の、底なし沼に』

狼「なにィ!?」

天『わざとじゃないんだよ!
ちょうど沼を渡ろうとしてる時、足元にカーバンクルが飛び出してきてさ。
避けようとしてそのまま……』


精「大丈夫なの? 怪我は?」

天『幸い怪我もなく元気です、はい……』

鬼「じゃ、じゃが、底なし沼にハマったっちゅうのに何で電話なんかできとるんじゃ?」

天『女幹部の魔法で浮かせてもらってるんだ。
今は何とか沼から顔とスマホだけ出せてる。
是非今の僕をお見せしたいよ、すごい間抜けな絵面なんだから』

魔「羽林に電話をかけた時、何だか嫌な予感がしたのよ。
それでアタシの使い魔に羽林の匂いを辿らせたんだけど、なんと沼にハマってるっていうじゃない。
どうにか遠隔魔法で羽林を引き上げようとしたけど流石にキツくてね。
直接助けに行けば引っ張り出せるんだけど、開演まで時間もないし……」

天『スマホが防水仕様で助かった~。
っていうかホント魔法って凄いよね、魔人様々だよ』

鬼「言っとる場合か!
どうするんじゃ、もうアナウンスが流れ始めとるぞ」

精「スタッフの子たちに頼んで、もう少し開演まで伸ばしてもらう?」

鬼「いや、多少伸ばした程度で有林を救出しにいくのは無理じゃろ……」

精「じゃあどうするの?」

鬼「う~ん、もう羽林なしで乗り切るか?」

天『うう! 僕の主人公の夢が……』


魔「桃太郎だったら所々アドリブでもいけるだろうし、こうなったら4人でーー」


狼「やる」


魔「そうよ、アタシたちだけで何とか頑張りましょう」

狼「いいや、違う。
予定通り、”5人で”桃太郎をやる」

魔「え?」

精「ちょっとウルフィ、今は無理を言ってる場合じゃ……」

狼「あたしたちは5人合わせて演劇部だ。
1人も欠けちゃいけねえ、今日という日は特にだ。
演劇部を守る為に、演劇がいかに素晴らしいかを皆に伝える為に、
あたしたちは完璧な舞台を見せなくちゃならねえ」

精「でも……」


狼「廃部の危機を目の前にして、今更引き下がるわけにはいかねえんだ」

精「ウルフィ……」

狼「あと昨日あんだけ泣き散らかして頼んだのに
やっぱり出来ませんでしたなんてあたしゃ恥ずかしすぎて言えねえ」


鬼「さてはそっちが本音じゃな?」


狼「おい羽林!」


天『はッ、はい!』

狼「お前、台本は全部覚えてるか?」

天『え? ま、まあ……ハイ、覚えてます』

狼「よろしい」


天『ホントは隙を見て羽林劇場をやろうと思ってたからあんまり覚えてないんだけど、
めっちゃ怒られそうだからだまっとこ』


狼「では羽林、部長命令だ。
今日はその場で舞台に出演しろ!」

天『え!?』

魔「ど、どういうこと……?」

狼「スマホの羽林の声をそのままマイクに乗せる。
そしてその声に合わせて、その場面で出演しないメンバーが羽林の代わりに桃太郎の体をやるんだ。
スマホは桃太郎役のヤツが持てばいい。
そうすれば”5人で”上演できる!」

魔「ほ、本気で言ってるの?」

狼「ああ本気だ。
羽林、異論はないな?」

天『ちょ、ちょっと待ってよ!
僕桃太郎なんて内容全然知らなーーア、いや、台本は覚えてるんだよ?
ちゃんと覚えてきたししっかり読み込んでバッチリなんだけど
でもな~! ちょっと自信ないっていうかやめた方が皆幸せーー』

狼「異・論・は・ね・え・な?」

天『今の僕に拒否権はないと思われます』

狼「よろしい!」

鬼「いやいやちょっと待てウルフィ!
気持ちはわかるが、下手すると4人でやるよりグダグダになってしまうかもしれんぞ」


魔「そうよ、ここは大人しく4人だけで、アドリブで桃太郎を……」

狼「だーーいじょうぶだッ!
あたしはお前らを信じてる!
それに今まで一緒に過ごしてきたあたしらなら、息もぴったり合うはずだ!」

鬼「そういう問題か!?」

精「あッ、ヤバイ、アナウンスが終わったみたい!
どうするか早く決めないと!」

魔「しょうがない、とりあえずアタシは川でスタンバイしてくるわ。
あとは桃から生まれてきた子に全部合わせるから、頼んだわよ!」

精「あッ、ベティ! 行っちゃった……」

狼「よ~~し! 演劇部の存続をかけて『桃太郎』やりきるぞ~!」

 

鬼「大丈夫かのう……」

 

 

 

 

 




 

 




■ステージ上

 

 




魔「はァ……丸投げしてきちゃったけど、結局どうするのかしら。
影ナレはウルフィちゃんだから何かあったらナレーションで上手く誤摩化してくれると思うけど……
心配だわ……」

 

狼『桃太郎、はじまりはじまり~』

 

魔「ううッ、始まった……!」


狼『むかーしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました』

 

魔「は~あ、最近は腰が痛くて敵わないねえ。
全自動洗濯板が欲しいよう。 アよっこらしょと……」


狼『すると川上から、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきたのです』

魔「おやまあ何て大きな桃なんだい。
これを家に持って帰れば、おじいさんが喜ぶねえ」

狼『おばあさんはそう言うと、その大きな桃を担ぎ上げ、家へと持って帰りました』

魔「おじいさん、帰ってるかい?
見ておくれ、こんなに大きな桃が手に入ったんだよ」

 

鬼「おお、帰っているよ。
どれどれ……ひゃあ~、何て大きな桃なんじゃ! きっと味もおいしいに決まっとる。
早速切って、2人で食べようではないか」

狼『おじいさんは大きな包丁を取り出すと、その桃を真っ二つに割ろうとしました。
と、その時です! 包丁が桃に刺さるよりも前に、桃が独りでにパッカーンと割れたのです!
そしてなんと、桃の中から~……!』

天『おぎゃ~!おぎゃ~!』

狼『可愛い可愛い男の子が生まれてきたのです~!』


魔「なるほど、皆はそういう選択をしたのね……」

精「うう……さくらの舞台デビューがまさか羽林ボイスの男児だなんて……」

鬼「もう後戻りはできん……さくら、ベティ、腹くくれ」

魔「大丈夫、既に腹が千切れそうなほどくくってる」

 

狼『子供のいなかったおじいさんとおばあさんは、たいそう喜びました。
そしてその子供に桃太郎と名付け、大事に大事に育てました』


魔「ああ桃太郎や、お前は小さくて可愛いねえ」

 

天『ありがとうおばあちゃん。 でも僕は早く大人になりたいんだ』

 

鬼「おや、どうしてじゃ?
ワシらとしてはお前のような可愛い子、ずっと面倒を見ていたいものじゃが」

 

天『僕は……え~っと、なんだったかな』

 

鬼「ん?」

天『あいや、ええと~……僕が大人になりたいのはどうしてだったかな~って。
えへへ、え~っと~……』

魔「さては台本忘れやがったな」


鬼「お、おお桃太郎! 自分と向き合えるのはよいことじゃ!
どうして大人になりたいのか一緒に考えるとしようのう!」

魔「じいじ、ナイスフォロー……!」

天『あ、ああ、ありがとうおじいさん!
そうだな、どうして僕は大人になりたいんだろう?』

鬼「桃太郎は大人になったら何がしたいんじゃ?」


天『え?』

鬼「大人になったら出来る事も増えるじゃろ。
子供の頃にはできないような、大人だけの夢なんかが」

 

天『僕のやりたい事……』

 

鬼「のう、ばあさんや」

魔「おじいさんの言う通りですよ。 桃太郎、お前のやりたいことは何だい?」


天『僕が……僕がやりたいのは……』

 

鬼「うむ」

天『人類救済』

鬼「……え?」

 

魔「桃太郎?」

天『そうだ! 僕は! 人類救済がしたいんだ!』

魔「桃太郎!?」

 

精「ちょっと羽林、それは流石に台本から逸れすぎ……!」

 

鬼「さ、さくら、今は羽林に合わせろ!」


天『僕ずっと頑張ってきたんだ。
どうしたら人類全てを救えるのか沢山考えて、あれでもないこれでもないって……。
なかなか答えが出なくて、もう僕にはダメかもしれないなんて考えた事もあった。
僕ずっと苦しかった、ずっと……ずっと苦しかった……!』

 

魔「も、桃太郎、齢5つにしてそんなこと考えてたのかい?
こいつはたまげた、桃から生まれる子は違うねえ~!」

精「ねえ、さくら一体何をやらされてるの?」

鬼「さくらが混乱しとる……!
羽林、頼むから落ち着け……!」

天『だけどッ!!!』


鬼「うわあ!」

 

天『僕はもう迷わないと決めた!
僕が全てを救済し、この世に平穏をもたらす。
皆が笑って過ごせる未来の為に! 僕はッ! 何があっても前に進むゥッ!!』

 

魔「……」


鬼「……」


精「……」

狼『な、なんとーー!
桃太郎の志は天よりも高く、そしてその優しさは海よりも深かったのである!』

 

魔「……」

鬼「……」


天『……あれ、皆? 僕の声聞こえてる?』

 

精「……さくら、もうやだ」

狼『これはこれは~! 迫力のあまり、おじいさんたちは気を失ってしまったようだ~!
桃太郎はそんなおじいさんとおばあさんを心配し、2人の手を引いて医者に行くのであった~!』

 

精「ああ、ナイスウルフィ……! ひとまず舞台裏に……!」

 

 

 

 


 







■ステージ裏控え室

 





狼「こんのバカ林!!」

 

天『ひええしゅいましぇん!!』

 

精「ポケットから羽林の声が響く度、さくら震えが止まんなかったよ」

魔「何とかウルフィちゃんが誤摩化してくれたから助かったけど」

 

鬼「あれは助かったと言えるんか?」

天『本当に申し訳ない、どうやら僕かなり緊張してるみたいだ。
あと台本は覚えてないですゴメンナサイ』


狼「こんのバカ林ィ!!」


天『ひィィ、本日2度目のバカ林ィ……!!』

鬼「緊張っちゅうか、妙なテンションになっとったぞ。

羽林、一旦落ち着け」

 

天『プレッシャーと合わせて昨日寝てないのもあって、気を抜くとすぐに羽林ワールドに入っちゃうんだ……。
ねえ僕ダメだよ、やっぱり4人でやってもらった方がいいよ』

 

狼「いや、それは許さん! 始めちまったからには最後までやる!」


天『ええ~!』

 

狼「何かあってもうまく誤摩化して助けてやるから、とにかく羽林は興奮しないように努めろ。
説教とお仕置きは全てが終わった後だ」

 

天『はわわ……』

 

狼「場につくぞ。
早くしないと場転にどんだけかかってるんだって怒られちまう」

 

魔「次のシーンは桃太郎が出立して犬・猿・雉子と出会う所ね。
アタシはおばあさんでお見送りするけど……他の配役は?」

 

狼「アタシは犬」

 

精「さくらは猿。
雉はぬいぐるみを上から吊るすだけだからスタッフさんが動かしてくれる」

 

鬼「ワシはナレーションじゃな。 雉の声もワシがやる」

 

狼「う~ん、これだと桃太郎で出られる人がいないな……」

 

魔「雉がぬいぐるみなんだし、犬か猿もぬいぐるみにしちゃえば?
声はじいじに任せることになるけど……」

 

鬼「台本見ながらやれば大丈夫じゃ」

 

精「ぬいぐるみは用意できる?」

 

狼「犬のなら持ってる! 普段からカバンに入れてる」

 

魔「ヤダ可愛い」

 

精「じゃあさくらがそれ持ってぴょこぴょこ動かすよ!」

狼「決まりだな! ……あれ、でも待って。 犬をぬいぐるみで代用ってことは……」

天『ごめんね』

狼「先に謝んのやめろ」


天『多分めっちゃ困らせるから』

狼「困らせない努力をしろ!」

鬼「そうと決まれば急がんと! 皆準備じゃ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

■ステージ上

 

 

 


鬼『人類救済を高らかに宣言した桃太郎。
桃太郎はなんと、長年にわたりこの村を鬼たちが苦しめていることを幼いながらに理解していたのである。
それをちょっとカッコよく言っちゃったので、おじいさんとお婆さんはビックリしちゃったのだった』

 

魔「桃太郎や、本当に鬼退治に行くのかい?」

 

天『うん、僕ももう大人だし、鬼たちには好き勝手させないよ。
大丈夫、必ず戻るから』

 

魔「そうかい……ならばこれを持ってお行き」

 

天『あ、きびだんごだ! ありがとう!』

 

魔「食べれば元気が出るから、きっとお前の役に立つよ」

 

天『うん! えーっと、確かこれで犬と猿と雉を仲間にすればいいんだよね!』

 

魔「エッ」

 

狼「おいバカ林、未来予知するなッ」

 

天『エッ、あれ、違ったっけ!
あ~ごめん馬だったかも! ちょっとあんまり覚えてないや』

 

狼「全部マイクに乗ってんだよ!
余計なこと喋りやがって、誰が代わりに動くと思ってんだ……!」

 

魔「ほ、ほほ~、桃太郎は動物たちを仲間にしたいのかねえ!
理想を語るってのは、とても良い事だからねえ!」

 

天『そうだよね! どんな馬がいいかなあ?
どうせならスゴい馬がいいな~。
二足歩行で超強くて鬼なんてひとひねり、僕が何もしなくたって勝手に鬼をボコボコにしてくれんの!
その上めちゃくちゃノリが良くて、僕がラップを刻んだら合いの手入れてくれるマブダチになれそうな奴!』

 

狼「おンまえ~~~ッ……」

 

魔「わー! わー! わかったわかった、桃太郎もういい!
ささ、もう行ってくるんだ。
おばあさん達のキャパが限界を迎える前にとっとと鬼を倒して帰っておいで」

 

天『“達”?』

 

鬼『という訳で~! え~、桃太郎は半ば追い出されるようにして家を出たのでした!
まあ、おばあさんも桃太郎の鬼気迫る話ぶりに、これなら鬼退治も任せられると思ったのかもしれませんね。
そして桃太郎はきびだんごを手に鬼ヶ島へと向かうのであった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎ステージ裏控え室

 

 

 

 

魔「ひ~、舞台裏に戻るとホッとするわ……。
あんな無茶苦茶な桃太郎、アタシがおばあさんだったらそっと桃に戻して川に流してるところよ……。
ア、さくらちゃん次出番!」

 

精「おう、行ってくる」

 

魔「……エッ、さくらちゃん何その格好!?
それ馬面のジョークグッズじゃん、どっから見つけてきたのそんなの?」

 

精「オレは桃太郎のマブダチだぜ、チェケ。
軽音部がパフォーマンスで使ってたヤツ借りたぜ、イェア」

 

魔「何、ついにさくらちゃんまでおかしくなっちゃったの?
アッ、もしかして羽林が言った設定を忠実に守ろうとしてる!?」

 

精「さくらの覚悟は決まってんだぜ、ヒェア。
行ってくるぜ! YO-HO!」

 

魔「ヨーホーは海賊! ちょッ、待ってさくらちゃん! ……行っちゃった。
有林の言うことなんて無視していいのに……。
1番最初のシーンで追い詰められすぎたかしら……羽林の罪は重いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾︎ステージ上

 

 


天『いやァ~、楽しみだなあ、馬。
僕鬼ってあざとくて可愛いのしか見たことないけど、鬼ヶ島にいる奴らって強いのかなあ?
もし強いなら相当ムキムキな馬じゃないとだよね。
退治も上等、ラップも上乗、二足歩行の馬が登場!』

 

鬼『ゴホン! えー、桃太郎はそんなことを申しておるが、鬼は皆怖くて強いものですので、

桃太郎はもっと気合を入れるべきじゃと思います。
そもそも馬が仲間になるわけは無いので早く目を覚まして欲しいです。
さて、桃太郎道を歩いていると、道の脇から突然桃太郎を呼ぶ声が聞こえました。
桃太郎が振り返るとそこにはーー』

 

精「よう桃太郎、きびだんご1個くれねえか?」

 

鬼『ブッ!!』

 

狼「さ、さくらァ……!?」

 

天『うわーー!! すごい!! 二足歩行の馬だ!!』

 

精「お腰につけてんだろ? チェケ?」

 

天『しかもすんごいラップに乗れそうなヤツ来た!! 理想的な馬だ!!』

 

狼「さくらが……さくらが壊れた……さくらァ……!」

 

精「それ1個くれたら、どこにだってついてってやるよ。
どこに行きたい? ニューヨーク? ロンドン?」

 

天『なんてグローバルなんだ! 今後の時代に必要な人材、いや、馬材だよ!』

 

精「フッ」

 

天『でも……何かちょっと』

 

精「ん?」

 

天『な~~んかちょっと……ノリが何かちょっと思ってたのと違うなあ……。
君にきびだんごをあげるのかあ……う~ん』

 

精「エッ、だ、だめ? ノリいい性格だよ? チェケ、とか言うよ?」

 

天『チェケって言えたら仲間になれると思ったの? いや~、それは甘いよ』

 

精「そんな! さくら……じゃない、オレ、ラップも好きだよ!
合いの手も欠かさないし、何より二足歩行! ……ダメ?」

 

狼「さくら……! どうしてそんなに健気なの……!」

 

天『そうだなあ、他には何ができるの?』

 

精「え、えっと~……可愛いってよく褒められます」

 

天『ほうほうなるほど。 可愛さで鬼を……ん~アリだな』

 

精「でしょ!」

 

天『例えばどんな可愛いアピールができるの?』

 

精「え? う、ウインク?」

 

天『ウインク~!? ぬるいな~!』

 

精「上目遣いは?」

 

天『う~ん!』

 

精「涙目アヒル口!」

 

天『アヒル口はもはやあざといの域だから』

 

精「上目遣い涙目アヒル口ウインク~!!」

 

天『ダメダメ、全然ダメ! ねえ、もしかしてヤケになっちゃってない?
君さ、本当に僕について来たいの?』

 

精「うう~……」

 

天『いや~、困っちゃうな~。 桃太郎ってさ、馬を仲間にするほど暇じゃないんだよね』

 

精「……は?」

 

狼「アッこれはまずい……」

 

天『馬を仲間にする暇はないって言ったの。
申し訳ないんだけどさ、これから僕鬼退治に行くんだよ。
だから出来れば歴戦の勇者とか、天下無敵の武将とか、何かこう歴史に名を残す……ア、呂布! 呂布とかいいね!
そういう鬼にワンパンかませる人材が欲しいんだよね。
馬じゃちょっとな~。 弱くない? 馬』

 

精「……お前が」

 

天『え?』

 

精「お前が馬がいいって言ったんだろうがーーーッ!!」

 

天『ギャアアアア!! 沼に雷落ちてきた!! 何!? さくらちゃん!?』

 

精「わざわざ覚悟決めて馬面まで被ってチェケチェケいいながら来てやったってのに何だお前その言い草はァ!!」

 

天『何むちゃくちゃなこといってるの!? 怒ってる!?』

 

狼「相当ご立腹だしド正論だよ」

 

精「さっさときびだんご寄越せ! お前のようなヤツには犬も猿も雉も必要ない!!
さくらが鬼をぶっ飛ばしてやっから黙って着いてこい! この桃スケが~ッ!!」

 

天『桃スケって誰!? 僕桃太郎なんだけどォ!!』

 

鬼『こ、こうして! 夢にまで見た馬との出会いにより、

桃太郎はもしかしたら鬼退治をしなくても良いかもしれないのであった!
めでたしめでたし! …じゃなかった、いざ鬼ヶ島へ~!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ステージ裏控え室

 

 

 

 

魔「じいじ、ナレーション交代」

 

鬼「おおベティか、すまんのう。 ワシら以外は続投か?」

 

魔「そう。 ウルフィちゃんが桃太郎の体役で、さくらちゃんは馬」

 

鬼「馬……」

 

魔「鬼役、頑張ってね。 今ステージ上ものすごい空気だから」

 

鬼「お、おう……。 ちなみに、どうすごいんじゃ? その空気は……」

 

魔「何というか、喜怒哀楽が一緒くたに煮込まれた地獄って感じよ」

 

鬼「わかりづらいがわかった。 とりあえず無事ではないということじゃな」

 

魔「そうね、幸運を祈るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


■ステージ上

 

 

 

 

精「桃太郎、お前はもう大人しくしてろよ。
今度余計なことしたら、鬼じゃなくてお前を更地にしてやるからな」

 

天『うわ~、さくらちゃん怖い』

 

精「何だって?」

 

天『心強いです、はい。
っていうかさっきから"さくらちゃん"って呼んじゃってるんだけどいいの?
桃太郎の連れに名前なんてあったっけ』

 

精「いいんだよ。 馬なんだから桜でまちがいないだろーが」

 

天『一理ある』

 

魔『え~、さてさて。 桃太郎たちが仲良く談笑しながら進んでいくと、ようやく鬼ヶ島が見えてきました。
鬼ヶ島の纏う空気はそれはそれは恐ろしいものでした』

 

天『わ~、これが鬼ヶ島かあ。 なんだか禍々しいところだな~』

 

精「ここに鬼が住んでるのね」

 

天『鬼が出てくるまで待つ?』

 

精「待たない。 悪いけどとっとと帰りたいんだよね。
こんな桃太郎と旅をしてるなんて、大精霊さんに知られたら泣かれる」

 

天『僕そんなにひどい?』

 

精「堂々と正面から行くから、目に入った鬼は全て叩いて。
元から期待はしてないけど、さくらの足だけは引っ張んないでね」

 

天『何かもうどっちが主人公かわかんないね……』

 

狼「お前がしっかりやらないからだろ」

 

天『確かに。 ぐうの音も出ない』

 

狼「あたしの声に反応するなバカッ」

 

魔『馬と桃太郎が仲睦まじげに話していた、その時です。
悍ましい空気とともに、2人の前に大きな影が飛び出しました!』

 

鬼「ガー! 鬼じゃ!」

 

狼「出てき方雑ゥ!」

 

天『わあ、あざとい』

 

鬼「なんじゃと!? これでも登場の仕方を工夫したんじゃぞ!
さっきおぬしにあざといだの可愛いだの言われたから、とびっきり怖がらせてやろうと思うて……!」

 

天『そうなんだ』

 

鬼「そうなんだ、って……!」

 

天『よくわかんないけど、声はすっごいあざとかったよ』

 

狼「ちなみにバンザイしながら出てきたから、見た目もばっちり可愛かった」

 

精「ねえちょっと桃太郎、鬼ヶ島の鬼って皆こんな感じなの?』

 

天『うん? わかんないけど、そうなんじゃない?』

 

精「本当に退治しちゃって大丈夫なのかなあ? さくらちょっと気がひけるな……」

 

天『そうだね。 こんな鬼だと、退治するというより保護するというほうが適切になってしまうかもしれない』

 

鬼「ほッ、保護じゃと!?」

 

精「え~、さくらんちじゃ預かれないよ。 元の場所に帰してきなさいって怒られちゃう」

 

天『僕んとこも鬼を預かるのは難しいな~』

 

精「そんな! おじいさんとおばあさんに相談してもダメそう?」

 

天『厳しいと思うなあ。 おじいさん達は僕で手一杯だよ』

 

狼「そりゃそうだ」

 

精「でも見つけたからには放っておくわけにいかないし……」

 

天『そうだなあ。 ナレーションさんは?』

 

魔『あ、ウチも無理です』

 

天『ダメか~、どうしよう。 一時預かりって形で学園でお世話して、里親でも探す?』

 

鬼「オォイ! おぬしら何をごちゃごちゃ話しとるんじゃ! 何でこのワシが捨てられた子犬みたいな扱いなんじゃ!」

 

天『あ~ごめんね、鬼が全然怖くなかったから』

 

鬼「く、くそう……! 頑張ったのに……!」

 

天『ああでも君が悪いわけじゃないからね、安心して』

 

鬼「同情ならいらんわい!」

 

天『いやほんとに! 僕さっきもっと怖いもの見てたからさあ』

 

鬼「何?」

 

天『いや~ほんと怖かったんだよ! 見せてあげたかったな~。
恐怖そのものだった! 僕チビっちゃったもん! よかった~、足元が沼で』

 

鬼「……すまん、話が見えん、何の話じゃ?」

 

天『何の話って、そりゃ怖かったものの話だよ。
あれ、もしかして見てなかったの? 勿体無い!」

 

鬼「まさか……」

 

天『鼓膜を殴り潰すような怒声!
お客さん達も聞いてたよね、ねえ、怖かったよね?
大地を揺るがすってのはああ言うのを言うんだなあ~!」

 

鬼「はねば……じゃない、桃太郎、それ以上は」

 

天『客席凍りついただろうな~、いやあ見たかった!
まさに鬼の形相で……あ、そうか、あれが鬼だったのか!
こんなに近くに鬼がいたのに気づかなかったなんて、桃太郎失格だ~。
僕が倒すべきは君だったんだね、さくらちゃん!』

 

鬼「あ……」

 

精「……」

 

魔『……』

 

狼「さよなら、演劇部」

 

精「……更地にしてやる~~~!!!」

 

天『ギャアアアア!! また雷!? うわああ嵐が来た!!
沼が、沼が揺れてる! 壊れちゃう! 僕死んじゃう!!
さくらちゃんゴメン!! ごめんなさい!!』

 

精霊『絶対許さないからな羽林~~!!』

 

鬼「うわ、何じゃ!? 体育館も揺れとるぞ!?
も、もしかしてここにも嵐が来たんじゃ……」

 

狼「いや違う、さくらが怒りで震えてるんだ!」

 

鬼「そんなことある!?」

 

狼「さくら落ち着け! いったん裏に戻ろう、な!?」

 

精「言い残したことはあるか~~!!」

 

天『ヒィィイ!! ごめんなさ~~い!!』

 

狼「さくらァ~!」

 

鬼「と、とりあえず締め! 一旦締めよう!」

 

魔『こ、こうして! 意外な結末を迎えた桃太郎!
彼らの戦いはまだまだ始まったばかりなのであった!
めでたしめでたし解散~~!!』

 

狼「全然めでたくな~~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

■エピローグ

 

 


狼『結局舞台はそのまま幕を閉じ、さくらはその勢いで底なし沼まですっとんで行った。
そして崩壊した沼のそばで白目を向いて倒れている羽林に、延々と説教をしたそうだ。
あたしを含めた他の3人はその現場を見ていない。
さくらが控え室を飛び出すなり、糸が切れたみたいに3人で床にぶっ倒れて、しばらく動けなかったんだ。

あれからもう半年が経つ。
こってり絞られて懲りたのか、羽林は台本を丸暗記してくるようになった。
代役を任されても完璧にできる、と胸を張っていたので、今度急に違う役を振ってみようと思う。

ちなみに学園祭の演劇部の公演、評価はどんなもんだったかというと……なんと大大大好評だった。
お客さんは全てが台本通りだと思ってくれたみたいで、

あんな迫真の演技は初めて見た、もっといろんな作品が見たい、と好感度が爆上がり。
おかげで廃部の話は白紙になったどころか、これから定期公演を行ってほしいなんて、

校長先生からお願いされちゃったんだよね。

今は次の公演に向けて、新しい演目を練習しているところだ。
前回の舞台で改めてお芝居の楽しさを感じたのか、皆毎日の練習にもとても気合が入っている。
次の台本は、なんとウチの演劇部オリジナル。
完全ノンフィクションのコメディストーリー。
タイトルは、『とある演劇部の桃太郎事変』だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おしまい

 

 

 

 

 

2022.11.1 修正

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